1-4. 美しく咲く花の子、咲ちゃんの話。 4

 

そういえば、咲ちゃんはウーロン茶を飲んでいたんだった。。。

 

 

咲ちゃんには、ひとまわり歳上の私より、

もうひとまわり近く歳上の彼氏がいた。

計算的には咲ちゃんが20歳の時、40近く。

つい最近、付き合った事を聞いたばっかりだった。

 

咲ちゃんの彼の事をすこし書いておこう。

あんなクズ、書くほどの価値もないのだけれど。

咲ちゃんの人生を書くにあたっては、やはり文字を連ねる必要がある。

 

咲ちゃんの彼は、のちに咲ちゃんの夫になるのだけれど、

40を過ぎてもまだ、一度も結婚した事がなく、

付き合った女性が本当に今までいるのか疑ってしまうほど、

彼女いない歴」というものが果てし無く続いている人だった。

 

私が何故それを知っているのかというと、私と咲ちゃんが出会ったバーにも

仕事終わりに来るお客だったし、知り合いをつたって聞いても、

合コンで誰かに気に入られるような話は聞く事がない人だったから。

 

彼女がいない男性を否定しているのではない。

自分に合わない人と無理に恋愛をするよりも、

この人だと思う誰かに出会うまで、独りでいることは、

時間を有意義に使っていると思う。

 

しかし、咲ちゃんはその男と付き合うことになる。

 

 

 

多分つづく。修正しないとな。

 

 

1-3. 美しく咲く花の子、咲ちゃんの話。 3

 

そして私の知らない間に、咲ちゃんは正規雇用者になっていた。

 

ふわふわと雲のように流れていた、透明感のある咲ちゃんは、

好きな人と、好きなだけ、好きな時に会って酒を飲んで騒いでげっぷしていたのに、

1本ピンと背中に細いけれどしっかりとしたハリガネのようなものが

刺さっている気がした。

 

咲ちゃんが毎日コンスタントに働き出してから

数ヶ月経ったある日、夜ごはんを一緒に食べていた時、

「つむつむがさ、月に一回同じ友達と会えたら嬉しいって言ってたやん?

うちにもその気持ちがやっとわかった。」と言ってた。

いきなり、咲ちゃんは社会人の時間軸によって動かされていた。

 

ハリネズミのようなT先生が、イライラしてすぐ怒る事、

自分には記憶力が著しく欠落しているんじゃないかと感じる事、

T先生は怖いけれど、でも患者に一所懸命の治療をしようとしている事、

自分はそれを手伝いたい気持ちがあるという事、

いろんな気持ちを話していた。

 

偉そうに語れるような事は何もなかったけれど、

咲ちゃんは決して仕事ができないタイプではないという事、

誰にでも最初が存在して、慣れるまで時間がかかる事など、

私ができる小さな、とても小さなアドバイスだけをした。

 

そんな時に咲ちゃんは言った。

 

「うち、妊娠しとるんよ。」

 

 

 

たぶんつづきます。

 

 

 

 

 

1-2. 美しく咲く花の子、咲ちゃんの話。 2

アルコールの力を借りて、ひとまわり下の咲ちゃんと

なんの隔たりも感じず今まで話していたけれど、

春の夜のはじまり、まだ少し夜と表現してしまうにはすこしだけ早くて、

明るさをほんの少し残した時間帯の、素面どうしのご対面は

私にとっては、とてもくすぐったい気持ちになって。

 

その時の買い物の詳細はよく覚えていない。

すこしよそよそしく、すこしだけカッコつけた気はする。

 

彼女には、特別な魅力があると思っていた。

だからなんだか、年齢は違うのだけれど、

私の方が背伸びするような感覚を常に抱いていた。

 

ある日、彼女と私が働くバーの客として来たのが、

短髪の黒髪が張りネズミのように見える、T先生だった。

私はバーの手伝いとしては、かなりイレギュラーだったので

T先生をお客として迎えたことはないのだけれど、

そのバーにコンスタントに現れる、常連の手前のような位置付けの人だった。

 

彼は歯科医師で、すぐに咲ちゃんの仕事ぶりに惚れ込み、

未来を憂う咲ちゃんに、自らが運営する歯科に働きにこないかと勧誘した。

 

いや、勧誘というよりは運営する職場の長所をプレゼンする形で

たくさんの資料と、当時咲ちゃんが考えていたエステティシャンの現在の労働環境と

歯科助手の雇用環境について、分厚い資料を作成し、咲ちゃんにアプローチしていた。

 

頭の良い人は、やはり咲ちゃんの器量の良さがわかるんだ!

と、その部類でもないのに、あたかも頭の良い人と同じ考えを持っていて

嬉しいと思った私は、他人事なのに誇らしげに思えた。

 

 

 

たぶんつづく。

 

 

 

 

 

1-1. 美しく咲く花の子、咲ちゃんの話。 1

 

咲(さく)ちゃんは、私よりひとまわり歳下だ。

彼女と出会ったのは、多分掛け持ちのバイト先のカジュアルバー。

 

雑貨をこよなく愛する咲ちゃんは、

経営の傾きかけたショッピングモールの有名雑貨店で

テンチョーと呼ばれる圧倒的存在にいいように使われていて、

風の強い日の雲のようにふわふわと流れて生きていた。

 

一人暮らしの家賃も、毎回2ヶ月づつ滞納していて、

それでも洋服と雑貨は毎月買ってて、

ツモという麻雀の専門用語みたいな名前のミルクティ色の猫と暮らしていた。

 

「咲ちゃん、明日は社員の休憩時間の13時から14時まで店に入ってー」

 

だとか、

 

「保険とか、ぜんぜん無理だから。うち、そういうの無理よ」

 

とか、とにかく正社員経験のある私からすると、散々な扱いだった。

 

その雑貨店で週6働いていた咲ちゃんが、

週4、週2、とどんどん減っていって焦った咲ちゃんが、

タイミングよく声をかけられて新しく働き出したのが、私と出会うことになるバーだ。

 

出会った頃の咲ちゃんはまだ10代で、

吹き出物というより、赤いポツポツ、

若い子の特権のニキビをほっぺたにいくつかくっつけていて、

私が何年か前に無くした、コラーゲンみたいな潤いの塊を身体中に纏っていた。

 

「あー、おしりかゆい」っていうのが口癖で、

男性の前でも平気でかゆいところを思いっきり掻いて、

「グエっぷ」って女子二人でランチ中に平気でげっぷして、

隣の女子力が高い女子に煙たそうな目で見られる子だった。

「あ、おならでた」とどこでも言っていた。

 

私は、恥ずかしいことを誰にも見られたくないタイプの人間で、

咲ちゃんの、げっぷやらおならやら、その他にもグロテスクで文字にできない

行為や物体も、蔑む人がいる中とても尊敬して見ていた。

自分には出来ない事を、平然と日常の中に取り入れている人として見ていた。

知らない事を知らないと言える、

恥ずかしいことを他人の前で披露できる咲ちゃんは、

稀有な存在と認識していたからだ。

 

そんな咲ちゃんと仲良くなったのは、

地元の商店街のいろんなお店でワイワイと騒ぐ、年に1回のイベント。

 

咲ちゃんは、その頃私の掛け持ちのバイト先のリーダーで、

祭りの買い出しを、もちろんノーギャラで行っている最中、

どうしてもわからなくなって、私に電話をしてきたんだった。

 

「つむつむー、使い捨ての器を買いたいけんスーパーに来たんやけど売ってなかっよー。他にどこに売っとるんかね」

と可愛い四国のどこかの訛りで話したのが始まり。

 

 

自己紹介を忘れました。私はつむつむと呼ばれています。

名前はつむぎ、その前2文字を重ねてつむつむと呼ばれています。

これは留学先でつけられたあだ名だけど、それはまた別のお話。

 

 

 

咲ちゃんからの電話を受けた時、車で家路に着こうとしていた私は、

「じゃー今からそこに行くから待ってて!」と

人生初めての咲ちゃんとの待ち合わせをした。

 

突発的な約束。緊張した。

 

まったく緊張していないであろう、屈託のない笑顔と会話を押し込んでくる咲ちゃんを前に、12も離れた私は圧倒されていた。

けど、決して居心地が悪い圧ではなく、許容してしまう何かを咲ちゃんは持っていた。

 

咲ちゃんは、ちょっと猫っ毛で、パーマなんだかくせ毛なんだか

ちょっとウェーブのかかったミルクティカラーのような色の毛を

腰あたりまで伸ばしているような女の子。

 

私のような剛毛で腰あたりまで、、、なんて言ったら

ドライヤーでいくら時間を費やすいのだろうかとぞっとするけれど、

咲ちゃんの毛質だと、すぐ乾くんだろうなぁって想像がつくくらい、

ふわふわで柔らかい髪の毛の女の子。

 

 

 

たぶん、つづく。

 

 

 

 

 

 

1. 今夜もどこかで。

 

今夜もどこかで。

 

誰かが泣いている。

違う誰かは笑っている。

 

2文字の重圧から、

山登りでリュックサックを背中からおろすくらいの軽さで。

よっこらしょ。

 

言葉を発する。

 

時には、本人以外に感じ得ない、

ヨーヨーのような孕みの中の小さな鼓動を軽んじて蹴る。

 

自分の敷いたレールの上から外れた物体の生気を絶とうとする。

 

今夜もどこかで。