1-1. 美しく咲く花の子、咲ちゃんの話。 1

 

咲(さく)ちゃんは、私よりひとまわり歳下だ。

彼女と出会ったのは、多分掛け持ちのバイト先のカジュアルバー。

 

雑貨をこよなく愛する咲ちゃんは、

経営の傾きかけたショッピングモールの有名雑貨店で

テンチョーと呼ばれる圧倒的存在にいいように使われていて、

風の強い日の雲のようにふわふわと流れて生きていた。

 

一人暮らしの家賃も、毎回2ヶ月づつ滞納していて、

それでも洋服と雑貨は毎月買ってて、

ツモという麻雀の専門用語みたいな名前のミルクティ色の猫と暮らしていた。

 

「咲ちゃん、明日は社員の休憩時間の13時から14時まで店に入ってー」

 

だとか、

 

「保険とか、ぜんぜん無理だから。うち、そういうの無理よ」

 

とか、とにかく正社員経験のある私からすると、散々な扱いだった。

 

その雑貨店で週6働いていた咲ちゃんが、

週4、週2、とどんどん減っていって焦った咲ちゃんが、

タイミングよく声をかけられて新しく働き出したのが、私と出会うことになるバーだ。

 

出会った頃の咲ちゃんはまだ10代で、

吹き出物というより、赤いポツポツ、

若い子の特権のニキビをほっぺたにいくつかくっつけていて、

私が何年か前に無くした、コラーゲンみたいな潤いの塊を身体中に纏っていた。

 

「あー、おしりかゆい」っていうのが口癖で、

男性の前でも平気でかゆいところを思いっきり掻いて、

「グエっぷ」って女子二人でランチ中に平気でげっぷして、

隣の女子力が高い女子に煙たそうな目で見られる子だった。

「あ、おならでた」とどこでも言っていた。

 

私は、恥ずかしいことを誰にも見られたくないタイプの人間で、

咲ちゃんの、げっぷやらおならやら、その他にもグロテスクで文字にできない

行為や物体も、蔑む人がいる中とても尊敬して見ていた。

自分には出来ない事を、平然と日常の中に取り入れている人として見ていた。

知らない事を知らないと言える、

恥ずかしいことを他人の前で披露できる咲ちゃんは、

稀有な存在と認識していたからだ。

 

そんな咲ちゃんと仲良くなったのは、

地元の商店街のいろんなお店でワイワイと騒ぐ、年に1回のイベント。

 

咲ちゃんは、その頃私の掛け持ちのバイト先のリーダーで、

祭りの買い出しを、もちろんノーギャラで行っている最中、

どうしてもわからなくなって、私に電話をしてきたんだった。

 

「つむつむー、使い捨ての器を買いたいけんスーパーに来たんやけど売ってなかっよー。他にどこに売っとるんかね」

と可愛い四国のどこかの訛りで話したのが始まり。

 

 

自己紹介を忘れました。私はつむつむと呼ばれています。

名前はつむぎ、その前2文字を重ねてつむつむと呼ばれています。

これは留学先でつけられたあだ名だけど、それはまた別のお話。

 

 

 

咲ちゃんからの電話を受けた時、車で家路に着こうとしていた私は、

「じゃー今からそこに行くから待ってて!」と

人生初めての咲ちゃんとの待ち合わせをした。

 

突発的な約束。緊張した。

 

まったく緊張していないであろう、屈託のない笑顔と会話を押し込んでくる咲ちゃんを前に、12も離れた私は圧倒されていた。

けど、決して居心地が悪い圧ではなく、許容してしまう何かを咲ちゃんは持っていた。

 

咲ちゃんは、ちょっと猫っ毛で、パーマなんだかくせ毛なんだか

ちょっとウェーブのかかったミルクティカラーのような色の毛を

腰あたりまで伸ばしているような女の子。

 

私のような剛毛で腰あたりまで、、、なんて言ったら

ドライヤーでいくら時間を費やすいのだろうかとぞっとするけれど、

咲ちゃんの毛質だと、すぐ乾くんだろうなぁって想像がつくくらい、

ふわふわで柔らかい髪の毛の女の子。

 

 

 

たぶん、つづく。