1-3. 美しく咲く花の子、咲ちゃんの話。 3
そして私の知らない間に、咲ちゃんは正規雇用者になっていた。
ふわふわと雲のように流れていた、透明感のある咲ちゃんは、
好きな人と、好きなだけ、好きな時に会って酒を飲んで騒いでげっぷしていたのに、
1本ピンと背中に細いけれどしっかりとしたハリガネのようなものが
刺さっている気がした。
咲ちゃんが毎日コンスタントに働き出してから
数ヶ月経ったある日、夜ごはんを一緒に食べていた時、
「つむつむがさ、月に一回同じ友達と会えたら嬉しいって言ってたやん?
うちにもその気持ちがやっとわかった。」と言ってた。
いきなり、咲ちゃんは社会人の時間軸によって動かされていた。
ハリネズミのようなT先生が、イライラしてすぐ怒る事、
自分には記憶力が著しく欠落しているんじゃないかと感じる事、
T先生は怖いけれど、でも患者に一所懸命の治療をしようとしている事、
自分はそれを手伝いたい気持ちがあるという事、
いろんな気持ちを話していた。
偉そうに語れるような事は何もなかったけれど、
咲ちゃんは決して仕事ができないタイプではないという事、
誰にでも最初が存在して、慣れるまで時間がかかる事など、
私ができる小さな、とても小さなアドバイスだけをした。
そんな時に咲ちゃんは言った。
「うち、妊娠しとるんよ。」
たぶんつづきます。