1-2. 美しく咲く花の子、咲ちゃんの話。 2
アルコールの力を借りて、ひとまわり下の咲ちゃんと
なんの隔たりも感じず今まで話していたけれど、
春の夜のはじまり、まだ少し夜と表現してしまうにはすこしだけ早くて、
明るさをほんの少し残した時間帯の、素面どうしのご対面は
私にとっては、とてもくすぐったい気持ちになって。
その時の買い物の詳細はよく覚えていない。
すこしよそよそしく、すこしだけカッコつけた気はする。
彼女には、特別な魅力があると思っていた。
だからなんだか、年齢は違うのだけれど、
私の方が背伸びするような感覚を常に抱いていた。
ある日、彼女と私が働くバーの客として来たのが、
短髪の黒髪が張りネズミのように見える、T先生だった。
私はバーの手伝いとしては、かなりイレギュラーだったので
T先生をお客として迎えたことはないのだけれど、
そのバーにコンスタントに現れる、常連の手前のような位置付けの人だった。
彼は歯科医師で、すぐに咲ちゃんの仕事ぶりに惚れ込み、
未来を憂う咲ちゃんに、自らが運営する歯科に働きにこないかと勧誘した。
いや、勧誘というよりは運営する職場の長所をプレゼンする形で
たくさんの資料と、当時咲ちゃんが考えていたエステティシャンの現在の労働環境と
歯科助手の雇用環境について、分厚い資料を作成し、咲ちゃんにアプローチしていた。
頭の良い人は、やはり咲ちゃんの器量の良さがわかるんだ!
と、その部類でもないのに、あたかも頭の良い人と同じ考えを持っていて
嬉しいと思った私は、他人事なのに誇らしげに思えた。
たぶんつづく。